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3. Anamorsinグループ(責任者:柴山)

エピローグ:新遺伝子のクローニング

1999年11月某日、暗室のUVランプに照らされ、PCR productのラインが、1本、くっきりと浮かび上がった。遺伝子クローニングに成功したようだ。そのPCR productを、シークエンス用のプラスミドに組み込み、塩基配列を読み取った。ATG.../蛋白をコードする最初の配列がみつかった。早速、イン ターネットのDNAデータバンクにアクセス、登録されている遺伝子塩基配列と比較した。配列の極めて似通った遺伝子がひっかかってきた。ヒトの遺伝子、機 能はunknown。配列のみの登録だった。クローニングした遺伝子はマウスの遺伝子。このヒト遺伝子のアナログで、新遺伝子とわかった。新遺伝子を発現 プラスミドベクターに組み込み、細胞に強制発現させ、抗アポトーシス作用があるとわかった。ノーザン解析で、種々の細胞に発現し、白血病の細胞にも強くで ていた。サイトカイン刺激で、Rasを介し、誘導されるとわかった。遺伝子に名前をつけた。生命科学図書館1階にある外国語辞典のコーナーにあるラテン語 を手に取った。Mors "死"。Anamorsin (Anti-apoptotic molecule with Ras association: Ana, against) に決めた。いい名前だ(自画自賛)。モノクローナル抗体も3種類できた。

第1章:Anamorsinノックアウトマウス作製

2000年、春。新しく基礎研究に加わった大学院生とAnamorsinのノックアウトマウスを作るというプロジェクトが始まった。しかし、ノック アウトマウスは、今まで作ったことがない。大学院生も実験の経験がほとんどない。あるのは、AnamorsinのcDNA配列と、やる気だけ。社会環境医 学教室の竹田教授の御指導を仰ぎながら、実験は進められた。まずは、genomic DNA取りからスタート。やっと取れたgenomic DNAを制限酵素で切って、シークエンス。その情報を基に、ターゲッテイング ベクターを作製し た。次は、マウスES細胞株にエレクトロポレーションでベクターを打ち込み、相同組み換えの起こったクローンをPCR、サザンブロット法にてセレクトし た。400以上のクローンから、25クローン得られた。うち4つのESクローンをマウスの受精卵に打ち込み、キメラマウスを作製。2001年11月12 日、最初のキメラマウスが誕生。アグーチと呼ばれる毛の面積の多いキメラがESクローン由来の細胞が多いマウスだ。そのキメラマウスのオスと正常メスマウ スを交配し、Anamorsinへテロ欠損マウスの誕生を待った。2002年2月13日、ついにヘテロマウス(全部アグーチ)が誕生した。見た目は、野生 型と変わらない。ここまで来たら、あせっても仕方がない。フェノタイプがでるかどうかは、神のみぞ知る。ヘテロマウスもやがて成長し、交配が可能となっ た。次に生まれてくるのが、待ちに待ったノックアウトマウスである。しかし、半分怖い気持ちもあった。フェノタイプでんかったら、どないしよ。忘れもしな い2002年4月9日、ノックアウトマウスが誕生した。このプロジェクトが始まってから、約2年が経過していた。1匹だけ死んでいた。身体が小さいし、し かも、皮膚の色が青白い。解剖したところ、肝臓や脾臓の造血器組織が萎縮していた。やったー。フェノタイプが出た。しかし、このマウスがノックアウトマウ スかどうかは、genotypingをやらないとわからない。結果は、ノックアウトで正しかった。次は、再現性だ。5月14日、2匹目のノックアウトマウ スが誕生した。同じく、死亡。身体も小さく、貧血あり。間違いなさそうだ。

第2章:Anamorsinノックアウトマウスの解析

Anamorsinノックアウトマウスは、胎生後期に死ぬ。しかも、貧血だ。血液内科で研究するには、かっこうのフェノタイプが得られた。(何度も 言うが、本当によかった!!)次に、このノックアウトマウスの解析を行うことにしたが、なにせ生まれてくるときは全部死んでいるので、生まれる前の胎児マ ウスを解析しないといけない。マウスは通常、受精後20日で生まれてくるのだが、受精後、12日目、14日目、16日目、18日目の胎児を解析することに した。そのためには、マウスがいつ受精したかわかるようにしないといけない。一晩だけ、オスとメスのヘテロ欠損マウスを一緒にして、翌日の朝には引き離し て、約2週間待つのだが、相性の悪いカップルでは、2週間経って、いざ実験しようとメスのマウスをみても、いっこうにお腹が大きくなっていない。残念!! もう一度、交配のやり直しだ。今度は、雰囲気を盛り上げるのに、甘いラブソングでも飼育部屋に流そうかと考えたりもした。このように、マウスの機嫌を損ね ないように、妊娠していただき、予定の日に、胎児を取り出して、主に肝臓の細胞を解析した。というのも、胎生後期の造血(二次造血という)は主に肝臓でな されているからだ。胎児肝細胞の形態観察、表面マーカー検索、アポトーシスアッセイ、コロニーアッセイを行った。その結果、ノックアウトマウスの胎児肝で は、成熟した赤芽球の減少、アポトーシス細胞の増加、コロニー形成能の低下が認められた。以上より、Anamorsinノックアウトマウスの胎児肝では、 造血細胞のアポトーシスの亢進と成熟障害が認められることが判明した。また、ノックアウトマウスと野生型マウスの胎児肝細胞から得たmRNAを用いて、 DNAチップ解析をしたところ、ノックアウトマウスでは、Bcl-xLとJak2のmRNAの発現が低下していることがわかった。Bcl-xLとJak2 のノックアウトマウスも、胎児肝での二次造血の障害が起きることが報告されており、Anamorsinとこれら分子に何らかの関係がある可能性が考えられ た。ここまでのデータを論文にまとめることにした。紆余曲折の末、2004年1月1日の朝、Journal of Experimental Medicineからアクセプトの返事がきた。その上、論文が掲載された号の表紙に選ばれた。こんな名誉なことはないと大喜びした。クローニングから約4 年の月日が流れていた。


これで、Anamorsin物語は終わりではありません。さて、次の展開はどうなるのでしょう。この物語を読んで下さっている方は、続きを知りたいでしょうが、もう少し(1年後?)お待ちください。きっと、面白い話ができると思います。では、そのときまで。

A 胎生16.5日目のマウス。Anamorsinノックアウト(AM-/-)マウスは体が小さく、貧血様である。また、肝臓も小さい。
B AM-/-マウスの脾臓は、萎縮している。
C, D 胎児肝の造血細胞。AM-/- (D)では、正常(C)と比べて、未分化な赤芽球のみで、成熟した赤芽球は見られない。B, C, Dの写真は、Journal of Experimental Medicine 2004, 199巻4号の表紙に用いられた。